義妹と、その兄の彼女−1

1 買い物で抱きしめ!

 夕方のスーパーで、草野姫乃くさのひめのは母に頼まれた夕食の材料を探していた。今夜はハンバーグらしいので、ひき肉や玉ねぎなどが必要だ。

 ふと前方を見ると、同学年で隣のクラスの西川久志にしかわひさしの姿が見えた。久志は去年、1年生のときに同じクラスだったが、積極的に話をしたことはなかった。当時彼はクラス委員をしており、面倒見がいい印象が残っていた。お互いに学校帰りの時間で制服姿だ。その彼も、こちらを見てきたので、目が合った。

 彼は姫乃のほうに歩み寄ってきて、声をかけた。

「草野さん、久しぶり」

 彼女は思い出した。彼はこういう気さくでいいやつなのだ。何年か前に母を亡くして、家事全般を任されているといううわさは聞いていた。中学生の妹がいるので、自然と面倒見がよくなったらしい。

「うん、西川くん・・・」

 彼のことが嫌いではないのだが、どうも彼女は男子と話すことに慣れていない。思わず目をそらすと、雨上がりでまだ濡れている床に彼女の靴がすべった。彼女の手は虚しく宙を舞うかに見えたが・・・その手を彼の手が掴んだ。あわてた彼女は、勢いよく立ち上がった弾みに彼のからだを両手で思い切り抱きしめた。

「ご、ごめんなさい! わざとじゃないの! はずみで・・・ あたし、重くて大変だったでしょ?」

「い、いや、重くないというか、やわらかいというか・・・ こっちこそごめん!」

 こんどは久志も目をそらして、一瞬両者は無言になった。

 が、姫乃は気を取り直して話しかけた。

「今夜はうちはハンバーグなの。材料買わなくちゃ」

「偶然だね、うちもなんだよ? 一緒に回ろうか?」

「そしたら嬉しいな。あたし、買い物あまりしないから、よくわからないの」

「いいよ、俺『主夫』だから。夫のほうね。毎日買い物してるから、慣れてるよ」

 彼は柔和な笑顔を見せた。その瞬間、彼女はその表情に心を持っていかれるかのような感覚がした。

(あたし、この人のことを抱きしめたんだ)