2 義妹の気持ちは面白くない
買い物をするスーパーが同じくらいだから、姫乃と久志の家は近かった。なんと、久志の家の200メートルほど先に姫乃の家があるのだ。入学して以来ずっとお互いにそのことに気づかなかったのが不思議なくらいの距離だ。
久志と姫乃が別れるとき、勇気を出して彼女は言った。
「あたし、これからあそこのスーパー毎日行く」
「お、そうか? それなら、草野さんに毎日会えるな」
久志の言葉に、深い意味はないだろう。しかし、姫乃には、特別な意味に思えた。
(あたしが、西川君と毎日一緒・・・だとしたら、きっと楽しい)
姫乃を見送った久志が自宅のドアを開けると、妹の遥奈が飛び出してきた。遥奈は久志の母の再婚相手である、今の父の娘で、久志とは血のつながりはない。久志より2歳年下で今は中学3年だ。見かけは大人びているが、精神的に幼く子供っぽいところがある。久志によく懐いていてお兄ちゃん子だ。
「おにいちゃん、いつもより帰りが30分遅い!」
「そうかな? ああ、スーパーで友達に会って、家が近いから一緒に帰ってきたんだよ」
「そうなの? この辺に友達住んでたんだ」
「ああ、俺も今知った」
久志が6歳、遥奈が4歳のときに両親が再婚した。だから、お互いの血がつながっていないことは遥奈も知っている。だからといって、久志は妹を異性だと意識することはなかった。しかし、遥奈はそうではなかった。最近、兄のことを意識してしまって仕方がない。
「わかった、おにいちゃん彼女できたんでしょ? あたしというものがありながら浮気しちゃだめだぞ?」」
遥奈は冗談めかして言ってみた。すると久志は冷蔵庫に買い物をしまいながら
「おい、俺に彼女くらいいたっていいだろうが」
と返す。いかにも遥奈のことは意識していない。
「あ、やっぱり女の子なんだ、やだぁ」
という遥奈に、久志は遥奈ではなく、手元の玉ねぎを見ながら
「よくわかったな、近所に住んでるらしい。同じスーパーで買い物してるらしいから、毎日会うかも」
と言った。遥奈はなんとなく心がモヤモヤした。
(なんでだろう?なんか面白くない)